残像

18/34
前へ
/34ページ
次へ
一瞬、意味が分からなくて私はただ、目を瞬いた。 意味がわからない。 誰と誰が? 相田さんって、誰? 「え? 相田さんって?」 私は首を傾げながら、笑って聞き返した。 でも、心臓が、どくどくして、胸が痛い。 私が知ってる相田さんという苗字の人は、一人だけで。 「相田さんだよ、一時、春妃ちゃんに嫌がらせしてた、彼女」 吉川さんの言う「相田さん」と同じ人物のようだけど。 嘘だ、だって。 まだ然程親しくもないころ、矢野さんと亨と、相田先輩と私、4人で会うようになった頃からそんな素振りは、見えなかった。 寧ろ、プライベートで会うのはこれが初めてのような、距離感。 「え? 誰かと間違えてません?」 グラスを持つ手の指先が、冷たい。 どれだけ平静を保とうとしても、声が震えた。 「あー……ごめん。もしかして、知らなかった?」 そう言った吉川さんの眉が気遣わしげに、寄せられる。 けれど僅かに口角が上がった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1878人が本棚に入れています
本棚に追加