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それを見て、ああ、この人確信犯だってすぐにわかった。
私が知らないってわかってて、ショックを受けるってわかってて。
わざと漏らした情報だ。
だけどそんなことよりも、私の心を今浸食しているのは。
亨への、疑心だった。
だって、そんな話一度も聞いてない。それどころか、二人とも最初は言葉遣いすら敬語でまるで初対面のような装いだった。
それは、あえて私に隠してる、ってことだ。
「ごめん、まさか知らないとは思わなかったから……わざと黙ってるなんて酷いよな」
声も出せなくなった私の肩に、吉川さんの手が触れる。
いやだ、触らないで。
こんな、下心しか見えない人間の、思い通りになんか。
「嘘つかれてるってことだもんな。……顔色、悪いよ、春妃ちゃん」
だけど、一瞬でも気を抜いたら涙がこぼれそうで。
私は、グラスを握る手を解いて自分の片手を強く握りしめた。
吉川さんは、テーブルの角を回ってすぐ傍までくると私の肩を抱き寄せて「外、出ようか」と耳元で囁いた。
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