残像

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福祉会館に到着して、視障会で借りている会議室に向かうともうあらかたの人数は揃っている様子だった。 あちこちで、先ほど私と秋生さんが交わしたような少し遅めの新年の挨拶が交わされている。 みんな、そのためにいつもより早く着いているのだろう。 お年寄りの人って、こういう部分とても気を遣う人が多い気がする。 そんな中の顔ぶれに、久しぶりの颯介くんを見つけた。 挨拶の途切れた頃を見計らって、近づいて声をかけると彼はなぜか少し気まずそうな表情をしたけれど、それでも次の瞬間には笑ってくれた。 「颯介くん、久しぶり。今年もよろしくね」 「うん、こちらこそ。去年はごめんね、せっかく声をかけてくれてるのに」 音訳の続きを、断ったことを言ってるのだろう。 私もそのことがずっと心に引っかかっていた。 「ううん、お母さんにしてもらえるならそれでいいんだけど……もし、人が足りなかったら言って?」 だけど、なぜ急に、とは聞けなくて、無難にそう答えるしかなかった。
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