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颯介くんが、後頭部の髪を片手で掻きながら苦笑いを浮かべる。
「……ほんとはね」
「うん? なに?」
彼が何かを言おうとしたところだった。
挨拶が一通り終わったのか、皆ガタガタとパイプ椅子の音を鳴らして、席に着き始める。
「ごめん、明日話す……明日もし、また音訳頼めるなら」
「うん? わかった。明日大丈夫よ」
久々に音訳の約束をして、私は退室して同じように同行で来ている人たちに軽く会釈する。
殆どがボランティアの人だがちらほらと家族の人もいる。
本当なら、家族の人にしてもらうのが一番気ごころが知れているのだろうけど、高齢だったり仕事があったりして、なかなかそうもいかないのが現実だ。
颯介くんは、お母さんに会館の前まで車で送ってもらっていることが多い。
世間話をしている間をすり抜けて、私は会館の外に出ると大通りに向かって歩き出した。
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