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母の言葉に、私は首をひねりながら湯呑をことりと置いた。
あの時、外に出されてもやはり冷静には戻れなくて廊下で大泣きしていたのは覚えている。
泣き続けた息苦しさとお祖父ちゃんが亡くなった悲しさばかりが際立って、あまり思い出したことはなかったが確かに、誰かに背中を撫でてもらっていた気がする。
「……あれ? あの人、誰だっけ」
「え? 知らない人だったの? 男の子、っていうか、男の人。あんたよりちょっと年上くらいの」
「いや、知らないっていうか……覚えてない。だってあの時、顔を見る余裕もなかったしお祖父ちゃんのお友達とかも何人か来てくれて人が多かったし……」
ちょうどあの日は視障会の集まりがあって……祖父の訃報はすぐにみんなに届いて、駆けつけてくれたのだ。
その中の誰かだと、したら。
颯介くん?
ふと浮かんだ顔に、何気なく携帯に触れた。液晶画面に灯りがついて、なんの着信もないことを確認する。
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