残像

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「ね、それって颯介くんじゃないの?」 「えー……わかんないわ。私もあんたの様子が心配でちらっと見ただけで。お父さんは?」 「さぁ……わからなかったな」 最近は親しく話をするようになったけど、この頃は祖父に連れられて行った先で、顔を見たことがある、という程度だった。 だから、もともと祖父の知り合いにそれほど詳しくはない父と母に、覚えがなくても仕方ないだろう。 彼は同い年だけど、私よりはずっと落ち着いていて大人に見える。 年上に見えてもおかしくない。 その颯介くんの様子が、このところ少しおかしい。 「連絡、ないなぁ」 あの、熱を出して帰ってしまった日から、音訳の続きをしようと連絡はしたのだけど。 母親にしてもらってるからしばらくは大丈夫だと、断られてしまった。 颯介くんのお母さんも働いているから大変だろうし……せっかく休暇に入ったのだから今ならきちんと手伝えるのに。 それに、ハンカチも返してお礼をちゃんと言いたかった。
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