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「春妃……あんた、もしかして颯介くんと付き合ってるの」
「違うよ。頼まれてた音訳がまだ途中だから、気になってて連絡待ってるだけ」
母が妙な勘違いをして勝手に心配しておきながら、私の言葉にあからさまにほっとしたような顔をする。
それが嫌で、顔に出てしまった。ぴくりと頬が痙攣する。
母の言いたいことはわかる。
祖父と同居していたわけではないが近くに住んでいたのだ、目の見えない人との生活が大変なことは、母もよく知っている。
「年越しそばの準備、手伝うから。それまで部屋にいる」
それ以上、会話をする気になれなくて立ち上がると、母が気まずそうにこちらを見上げた。
その表情を見て、私も少し胸がちくりと痛んで、仕方なく言った。
「……私、ちゃんと彼氏いるし」
途端、母の目がまんまるになる。
新聞に目を落としていた父までがうろたえたのか、がたんと湯呑を倒した。
「ちょっと! お父さん何してるのよ」
慌てた二人のやりとりを放置してくるりと背中を向けると、2階の自室へと上がった。
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