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亨はそれを笑いながら両手でキャッチして、私に視線を合わせる。
その視線に、鋲か何かで止められたみたいに、動けなくなった。
「今はお前しか見てない」
ありきたりの、簡単な言葉。
だけど、まっすぐ私の目を見て言う。
唇が、ふる、と震えて私はまた下唇を噛む。
「ちゃんと、態度で示してたつもりだけど」
涙をこらえて痙攣する唇と頬。
手が伸ばされて、目じりから滲み出た涙を亨の指が拭った。
「言葉でも言って欲しい」
「ん」
「お待たせいたしましたーっ!
お料理運ばせていただいてもよろしいでしょうか!」
「ひゃあっ!」
先ほどのおどおどした店員とは別の店員が、鍋の準備を手に勢いよく暖簾を開ける。
それは亨が身体を乗り出して、テーブル越しに顔を近付けていた時で。
私は驚いて悲鳴を上げてテーブルに顔を伏せた。
第一こんな顔、見せられないし!
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