酷いのは、誰。

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てっきり、何の話なのか亨の方から聞いてくると思って、少し緊張していたのだけれど、歩いている間も彼がその話題を口にすることはなかった。 もしかしたら、それほど大事な話とも思わずに忘れてしまっているのかもしれない。 亨が頼んだ日本酒と、悩んだ末に結局頼んだグレープフルーツサワーが料理よりも先に運ばれてくる。 入口が簡単な暖簾で仕切られている小さな個室で、向かい合って座っていた。 「あ、生グレープフルーツ」 「って書いてあったろ」 半分に切られた生グレープフルーツを自分で絞って、お酒の入ったグラスに注ぐタイプのものだった。 「……絞って」 「なんでだよ」 苦笑いしながら、私の代わりにグレープフルーツを絞ってくれる。 甘えたくなったのは、あの話を聞いたばかりの時に感じた嫌悪感は顔を見るとそれほど感じなくて、もしもこのまま忘れてしまえたら、って。 そう思ったから。
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