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考えてみれば、全部過去のことだ。
知られたくなくて口裏を合わせて知らないフリをしていたのは考えただけでイライラするけれど……過ぎたこと、なんだから。
ちょっと怒って、ちゃんと話してくれたら良かったのにって。
それだけ言ったら、後は仲直りすればいい。
だから、それほど不安になることはない。
今はきっと、私を見てくれている。
「亨……」
「うん?」
「相田先輩と付き合ってたって、ホント?」
猪口を持ち上げた亨の手が、ぴたりと止まった。
彼の目が、少し見開いて私を見る。
僅かな一瞬だった、彼の返事が遅れたのは。
そして、後悔した。
聞かれたくない話なのだと、彼の目がそう言っている。
「……付き合ってたよ。一年前くらいまでな」
「やっぱりそうなんだ。だったら、話してくれても良かったのに」
笑って言ったつもりだったけど、動揺して声が上擦った。
だって、彼の表情があまりに無表情で、読めなくて……怖い。
「誰から聞いた? そんな話」
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