1539人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「私も」
俯いたまま、私は亨の靴の先を見ている。
今は顔を見たくない。
顔を見て余計に嫌悪感が沸くのも怖いし、ほだされそうになるのも嫌だ。
「私も、ちょっと距離置きたい」
「春妃」
亨の手が、私の首筋に当てられる。
親指が顎を押し上げようとするから、私はまた乱暴にその手を払い除けた。
「嫌だってば!」
私が声を荒げたのと、同時くらいだった。耳元で私の背後にある鉄の扉が大きな音を立て、咄嗟に目を閉じた。
背中に触れた扉から振動が伝わる。
目を開けると、顔のすぐ横に亨の腕があり、彼が拳を叩きつけたのだとわかる。
非常階段の扉を背に、彼の両腕に囲われていた。
「春妃」
最初のコメントを投稿しよう!