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亨の姿は、ガラス張りの玄関を入ってくる前から見つけてた。
あんな風に喧嘩売って逃げてきたのだから、怖い顔で睨まれるかもしれない。
もしかしたら、また非常階段へと目配せでもされて……それならそれで……。
とか。
頭の中でごちゃごちゃ考えているのをあざ笑うかのように。
「おはようございます」
会釈した私の前を、まったく素知らぬ顔で通り過ぎて行った。
ちらりとも、視線を合わせずに、だ。
これじゃまるで私が亨の反応を期待していたみたいで……カッと頭に血が上った。
遠ざかる後頭部に物でもぶつけてやりたかったけれど、残念ながら投げる物が見つからず、人前でもあり断念した。
朝の腹立たしさがまた蘇って、私はグシャグシャにまるめたビニールを勢いよくゴミ箱に投げ入れる。
「よーくわかった! 亨からは折れるつもりがないってこと!」
「ちょっと……一体どういう喧嘩したのよ」
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