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「いや、でも。それじゃ困るんだろ」
亨が、はっとして声を上げる。
そう、ただ会ってたわけじゃない、音訳という大事な用があったから会っていたのだ。
私がそれを引き受けなくなっても大丈夫なのだろうか、私もそれが心配で、最後にしたいと話した時に颯介君に尋ねたのだけど。
「協会に頼めば誰かがやってくれるし。ほんとは会わずにボイスレコーダーで録音してもらって送ってもらうとか方法はいくらでもあるんだよね」
そういうことらしい。
ますます呆気にとられて声もでない亨を前に、照れ隠しに後頭部を擦りながら、へらりとそんなことを言う颯介くんは、意外とたくましいのかもしれない。
「春妃ちゃんに会いたくて、わざと音訳が必要な資料ばかり選んだりね。ごめん」
そう言うと、彼は急に笑みを潜めて神妙な顔で頭を下げた。
「春妃ちゃんが普段は仕事をしてて、休み返上で来てくれてることを僕はちゃんと考えられなかった。それが一番、悔しかった」
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