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私は慌てて、亨の胸を強く押して距離を取る。
亨も難なく離れてくれたのだけど、戻って行こうとする安藤さんを呼び止めた。
「安藤、悪いけど煙草一本ちょうだい」
「メンソールしかないわよ」
ブランドの煙草ケースごと、半開きの扉から飛んでくる。
亨が上手くキャッチしたのを確認すると「後で返して」と言って、ガシャンと閉じた。
「春妃、悪い。一本出して」
隣から煙草ケースを差し出してきた手はウサギだった。
そういえば、この手で煙草なんか出せるわけない。
中から一本取り出して、亨の口元に加えさせるとライターで火を付けた。
ジリ、と先端が焼けついて、小さな火種が灯る。
同じように私の胸に灯った火種が、じりじりと胸を妬く。
「これ一本吸ったら戻る」
「うん……安藤さんも一緒に出張だったんだ」
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