手を伸ばす、その先-2

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「わかってるってば、仕事だもん。何も文句言ってないじゃない」 イラついた口調と言葉が飛び出して、これでは我儘と大差ない。 そう気が付いて、気まずさから黙り込む。 会いたいから、ずっと楽しみにしてたのに。 それに、安藤さんがやっぱり一緒にいるんだというもやもや。 いくつかの負の感情が私の言葉の邪魔をする。 素直じゃない私の言葉には亨も慣れっこなのか、電話の向こうで少し笑いを含んだ溜息の気配がした。 『悪い、もう行かないと。近いうちに帰るから』 そう言ってすぐに通話は切れてしまい、寂しい電子音を聞きながら今更後悔する。 なんでひとこと、ごめん、とか。 寂しいとか言えなかったんだろう。
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