1244人が本棚に入れています
本棚に追加
「春妃ぃー……」
美佳が私を呼ぶ声がして、ぷつ、と張りつめたものが和らぐ。
空気の余韻を振り払うようにして、背筋を伸ばして美佳のいるソファへと視線を向けた。
「……水、ちょうだい」
「美佳、起きたの?」
私が慌てて立ち上がる時には、芹沢さんも一歩下がって少し距離が出来ていて、まるで何事もないような空気が流れる。
事実、何かあった、というわけじゃないけど。
何もなかった、とも言えない空気だった。
水を汲みにキッチンに行こうと芹沢さんの前を通過したとき、ぼそりと小さな呟きが耳に届く。
「……狸め」
「えっ?」
思わず立ち止まって聞き返してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!