悪意の裏側

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「帰るけど、亨も急がないと行き違いになるぞ。春妃ちゃん、新幹線に乗ろうとしてる」 「は?! 新幹線?!」 それは考えていた「春妃の行きそうな場所」のなかには全く無い答えで思わず声をあげる。 「亨を迎えに行く、って。健気で可愛いなあ。欲しかったなあ」 「さっさと出てけ!」 頬は腫れて、鼻の下にはうっすら血の後も見える間抜けな顔で恍惚とした表情を思い浮かべた男の背中を、玄関から蹴り出した。 「ああ、春妃ちゃんに伝えといて。例え知り合いでも、目の前で暗証番号押したりしたらせっかくのオートロックも意味無いよって」 廊下でそう言いながら手を振るその顔に忘れ物の革靴を投げつけて、今度こそ部屋から閉め出した。
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