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「えっ、殴ったの?」
「当たり前。ってか、さっきからずっと気になってんだけど」
亨が片腕を解いて、私が腕に提げている電気屋の紙袋を指で摘んで中を覗き込む。
その頬は、若干引き攣ったように笑っていた。
「お前、なんでこんなもん持ってんの」
「あ……さっき電気屋さん寄って買った」
「……バリカン持って、新幹線?」
「だ……だって」
これを買った時の心境を思い出して、私はまた涙が込み上げて唇も歪んでしまう。
だって、あの時はまだ、亨が安藤さんのとこにいると思ってたから。
「も、もしホントに浮気してたら……ハゲにしてやろうと思って」
なんて馬鹿馬鹿しいことをしようとしてたのかと可笑しくなって唇は笑ったけど、涙は止まらなかった。
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