第二章

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  ◆  御主人様の屋敷には、客人が良く訪れます。私は来客対応の業務を仰せつかり、客人を案内し、御主人様自慢の芸術作品を飾る展示室へと案内し、私が料理を作りもてなしました。  資産家である御主人様の客人は錚々たる方々でございました。王族、政治家、起業家、高官、医者、弁護士等々。様々な高名な方々でございます。御客様は御主人様の収集した芸術作品を見る為に屋敷を訪れておりました。  屋敷を案内する前にロビーで少しお待ちいただきますが、そこには私のお気に入りのソファがあります。そのソファの革は最高に肌触りが良く心地よいのです。清掃の合間、誰も居ない時にこっそりとそのソファに腰掛けてお茶を楽しむことが、私のささやかな愉しみの一つでした。この革は屋敷の様々なインテリアで使用されています。その皮が使われているインテリアを清掃することはとても心地よいものでした。  御主人様の展示物は度々新作が陳列されます。その度に彼らは屋敷を訪れ感嘆を漏らしていらっしゃいました。  私は展示物の説明をする役目を仰せつかっていますので、来客の皆様を室内へ誘導しつつ展示物の表題と共に説明します。  『甘美』――至高の幸福を傍受した瞬間の満ちた表情をご覧下さい。恍惚とした眼は天を仰ぎ、人生の最高潮を迎えた瞬間を捉えています。これ以上の幸せは未来永劫無い、今、この瞬間にある幸せを少しでも長く感受したいという願いが表れています。  『典麗』――最高の体と容姿を持つ女性の一番美しい瞬間を作品として残し、永遠に美を維持しています。自らの美に酔いしれ、周囲からの羨望の眼差しを快感へと昇華している様子が覗えます。    『失望』――期待に添えられず最悪な結果を出した事で周囲から失望を受ける様子を表現しております。周囲の失望に耐えきれない苦悩の表情が、どれだけの大きな災悪を作りだしたのかを物語っています。  『躊躇』――躊躇う事で苦しみが増している様子が描かれています。やるべき事は判っているのに中途半端にしか行動出来ず思い切れないこの人物は、私達が人生の岐路に立った時に持つ躊躇いと同じ物を抱いています。選択の必要が迫られているのに、選択する事が出来ずその場で無為に時間を過ごす様は、私達に大きな教訓を示しております。
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