第二章

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  ◆  御主人様は夕刻から夜更けにかけて活動することが多く、早朝から夕刻までは睡眠時間として使用されていました。御主人様は夜が好きでございました。私は盲目でありましたので、昼も夜も関係ありません。ですので、御主人様の生活時間に併せることは容易でした。  時折、御主人様は唐突に外出されることがございました。その時はいつも専属の運転手を呼び出し車で外出なさります。一夜でお戻りになることもあれば、数日戻らないこともありましたが、一週間以上不在にされることはございませんでした。戻られる際は、大抵新しい美術品や工芸品、貴重な家具を手に入れておられました。女である私には持てない重い物である事が多く、搬入は御主人様と運転手の二人でされておりました。私は搬入された家具を丁寧に磨き、或いは展示室に新たに用意された専用のガラスケースを丁寧に拭き、清潔にすることが仕事でした。  運転手とは時折雑談をすることがありました。彼は御主人様の脚となる業務の他に、日用品や御主人様が指定なさる食材の買い出し業務も担っていましたので、私は時折必要な物を彼に手配してもらっていました。その際、良く軽い雑談をしました。彼は蒼空の色が好きだと良く言っていました。私は蒼空の色が判りませんので想像することしか出来ませんでしたが、さぞかし素晴らしい色なのでしょう。彼は私に何色が好きだと問いましたが、生憎、色についての見識がないために返答に困りました。私は清廉潔白を是としておりましたので白が好きだと解答しました。彼は嗤っていました。嫌いな色は何色だとも問われました。私は火が恐怖の対象でしたので赤色と即答しました。すると、やはり運転手は嗤うのでした。   ◆
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