第二章

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  ◆  ある日御主人様は仰りました。 「君は良く僕に尽くしてくれている。礼として一つ君の願いを叶えようじゃないか」  私にはもったいない言葉でした。  生活に困らず暴力もない素晴らしい場所、そして沢山の知識と教養を与えてくださいました。これ以上に何を願えば良いのでしょうか。必要以上のものを御主人様は既に与えてくださっていました。  ですので、私は実現不可能な願いを申し出ることにしました。そうすれば、この場が収まると思ったからです。 「視力を戴きたく存じます」  御主人様は一時黙った後に高嗤いしました。  そして「――承知した」と仰いました。  視力を得る事など出来るのでしょうか。私は不思議に思いましたが、御主人様の返答ぶりから察するに、実現可能な様子でした。  数日後、私は運転手の操る車に乗り病院へと赴きました。外出をするのは屋敷に勤め始めてから初めてのことです。屋敷に勤め始めて既に五年が経過していました。  訪れた先は巨大な病院のようで多くの患者と看護師、御医者様が居ました。私は運転手に手を引かれ奥へと進みます。混雑する廊下を通り抜けて静かな部屋に通され、そこに居た御医者様に私の眼を詳細に検査されました。何をされたのかはよく判りませんでしたが、時折痛みを伴うものでした。事後に詳細を聞くと、私の眼の組織状態を知りたかったとのことでした。型の合う眼があれば、その目を移植することで視力を得る事が出来ると仰いました。眼を道具のように付け替えるだけで簡単に視覚を得る事が出来るのか私は不思議でしょうがありませんでしたが、御医者様を信じるしかありません。それと、もう一つ気になることがありました。新しい眼はどこからやってくるのかという疑問です。それを聞くと、御医者様は仰いました。
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