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「亡くなった人の眼を吟味して型のあった物を使用する。型の合う人が現れるまで時間がかかるだろう。数ヶ月先か数年先か。いつになるか判らないので気長に待つように」
想像していなかった解答に私は驚きを隠せませんでした。死体は禁忌であり、死者に触れることは神への冒涜とされ、やってはならないことだと両親から教わっていたからです。しかし、私は会食の場やラジオで、時代と文明の変化によって世間の価値観が変わることを識っていました。死体を代用品として使用する思想が当たり前になる時代が訪れているのかもしれません。
検査を終えると、私は運転手に手を引かれ車に戻りました。帰りの道中、検査を終えたことで安心したのか、私は車内から外の状況を観察する余裕がありました。屋敷に入り五年が経過していますが、その五年間で世間は様変わりしている様子でした。戦争が終わったことが大きな影響を与えているのでしょうか。病院の中、そして町中は今までにない活気に満ち溢れていることが耳から伝わりました。肌から伝わる空気も、今までと違い乾いているように思いました。
◆第三章へ続く◆
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