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当時は戦時下で空襲が頻繁にありました。家族や近隣の皆様は空襲がある度に暗闇の防空壕に入る行為が嫌な様子でした。「防空壕は狭くて真っ暗で何も見えないし、外の様子が判らないから怖い」と良く仰いました。私はそれが不思議でした。狭くて何が何処に在るかが明確に判る防空壕は、私には最高の居場所だったからです。外の世界は広すぎて盲目の私には大変な世界でしたから、視力の在る無しでこうも生きる世界が変わるものなのだと、毎回感じていました。
私は学校と自宅以外の世界を知りませんでした。不幸なことに友人に恵まれませんでした。私の容姿が優れていることが癪に障るようで親しい友人は誰一人としていませんでした。私は盲目ですので自身の容姿が如何様な物なのかは理解出来ませんでした。近しい年齢で親しい人間は弟だけでした。私は容姿の妬みが原因で良く虐めを受けていましたが、弟はよく私を助けてくれました。両親は仕事で忙しく、普段本当に私に良くしてくれていますので、虐めについて相談することを憚っていました。弟はそれを察してなのか、積極的に私の学校生活を助けてくれました。盲目の私は勉強をする手段が限られており、周囲の人と比較すると知識と教養が足りない人間でした。教科書や辞書、新聞や物語などを読むことが出来ない私は知識を得る手段がほとんどありませんでした。ラジオは当時、貴重品でしたので聞くことは滅多に出来ませんでした。弟は少しでも私の助力になればと勉強を手伝ってくれました。
私は両親と弟を心の底から愛していました。盲目で何も出来ず、家族に頼りきりな私は、いつか必ず三人に恩返しをしたいと思いながら、三人からの助力の中で生活をしていました。料理の腕を毎日磨きました。家族から必要とされる在り方、料理人で在ることを模索し探求しました。
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