第一章

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  ◆  私が十三歳の時、弟が病気で死にました。私は涙が止まりませんでした。こんなにも哀しい思いをしたのは始めてでした。  初めて葬儀を体験しました。火葬される前に、最後に弟に触れたいと近づきましたが、両親から死体に触れることが禁忌とされていることを教わりました。 「死体に触れると体が傷つく。死体の傷は癒えることがない。綺麗な体でこの世から送り出すことが最上の弔いになるんだ」  と父は仰っていました。  弟を失いたくないと嘆くと母は優しく語りかけてくださいました。 「死者に触れることは神様への冒涜になるんだよ。神様が決めた理から抗う事は出来ないのよ。神様が決めたことには従わないとね」  当時の私には神の理を理解出来ませんでしたが、綺麗な体で弟を送り出せるならば、それは素晴らしいことだと思いました。  そして一年後、空襲により両親が亡くなりました。  弟の時とは違い、両親の亡骸は在りませんでした。見つけることが出来ませんでした。両親を綺麗な体でこの世から送り出すことが出来ず、これが神の決めた理なのだと自身に納得させました。  私は独り身になってしまいました。   ◆
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