第1章

3/4
前へ
/5ページ
次へ
こうやって優しく笑いかけてくる子にロクな奴はいなさそうだからだ。悪徳契約を進めてくるセールスマンなみにたちが悪い。 「私、さっきのあれはないと思います」 「わかってんなら言わないでくれ」 「つまらないギャグは、つまらないと言ってあげないといつか落とし穴に落とされます。クモの糸のカンダタだって下を見なければ助かったかもしれませんしね」 「クモの糸って芥川龍之介?」 「貴方が言ってたんですよ。さっきからブツブツ、ちょっと危ない人かもって思っちゃいました。でも、そうです。クモの糸。私もあれだけは読んだことがあったので」 「危ない人でごめんね。中学生」 「ご、ごめんなさい。年上の男性に失礼なこと言っちゃいました。ついでに言うと私、高校生です」 「そりゃよかったね。高校生。叶わない恋とかして、失恋してれば?」 「根に持ってます?」 「持ってないよ。俺ってそこらの川並に心が澄んでるから、めちゃくちゃきれい過ぎて飲めるレベルだからな」 「それめちゃくちゃ汚れてると思います」 「バカ、高校生、社会人の心はいつも真っ黒なのよ。だから、ちょっと肩が当たったくらいで嫌な顔するなよ。あれ、予想以上に心にくるから、完治まで時間かかるからな」 俺、そんなに汚れてるの? 心? 身体? え? どっちも? マズくない。俺、身も心も汚れちゃったわ。 「けど、中年のおじさんの下心丸出しの下ネタや視線はちょっと怖いですよ」 「警察に相談しなさい」 「そうすべきですかね」 「もしくは、はぁ? お前とか相手にしてませんけど、あんまりジロジロ見てると警察に連絡しちゃおうかしらってフリをしろ。それとなく電話するフリな」 「やってみます」 「参考までにしておけ、男性からの視点だ。男はいつまでもバカなんだよ」 「はぁ、永遠の少年なんですね」 「そうなの。男はいつも少年、だから、週刊誌を買うのやめられない。お兄さん、どうしたらいいと思う?」 「思い切って買うのやめるとか?」 「やっぱりか。そりゃそうだよな。でも、長い時間、かけて追っかけた漫画を途中で途切れるとイライラするんだよな」 「禁煙中のおじさん」 「今、めちゃくちゃ失礼なこと言ったよね」 「言ってません」 「そうかい」 「はい」 コクリと中学生こと、高校生は頷いて、 「バス、遅いですね」 「いいだろ。こういう時間も悪くない」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加