第1章

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くだらないことを悩みながら、つまらないことで解消する。俺はポケットからアメ玉を取り出して、指ではじいて口に放り投げた。 「わぁ、ピーナッツでやる人、知ってますけど、アメ玉でもできるんですね。今度、やってみます」 高校生がキラキラと瞳を輝かせて言った。指ではじこうとして落として涙目になってる姿しか予想できない。 「やめとけ、慣れないとアメ玉が喉の奥に入り込んで大変なことになる。餅を詰まらせてポックリ逝くバーサンなみに苦しい死に方になるぞ。シャレにならん」 「ポックリですか」 「ポックリだ。ポクポク、ポーンだ」 「木魚ですか」 「わかりにくいボケにツッコミ、ありがとう」 「いえいえ。あまりにもつまらなかったのでツッコんであげないと失礼かなと思っただけですから」 高校生はフリフリと手を振った。 「いろいろ失礼だね。君」 はぁとため息をついた。 「やっぱりいろいろ大変なんですか、お仕事とか」 「甘いな高校生、この世に楽な仕事なんてないんだよ。どんな仕事だって難しくなくても、楽な仕事はない。なぜなら責任とかいろいろのしかかるからな」 「あまり聞きたくないです」 「いつかは自分もやることだ。覚えておけ、クモの糸みたいに天国から釈迦が糸を伸ばしてくることなんて一度もない。たとえつかんでも切られるだけだ」 幸福になれる一本の糸を手繰り寄せるこもはとても難しい。 「じゃあどうるんですか」 「地獄を天国に変えればいい。クモの糸に縋るより、自分の周りを天国に変える努力をするほうがもっとも有意義だ。わかるか?」 「わかりません」 「そうか、まぁ、それでいい」 俺は言う。しょせん、中卒野郎の戯言でしかないからな。 「しょせん、この世は地獄ってことだよ。ほら、バスが来たぞ」 「あ、本当だ」 バスが停止位置に止まり、プシューッと扉が開く、高校生は立ち上がり入っていく。 「さようなら、社会人さん、楽しい時間でした」 「おう」 俺は手を振った。
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