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私の好きな人が死にました。 誰かに胸を撃たれたのです。 ぽっかりと穴が空いたのは彼じゃなく私。 どうして? 貴男はこんなところで倒れてるの? どうして? 私はこんなところで泣いているの? 貴男に届かない言葉が多すぎて。 私の声は届かない。 貴男に届けたかったのに。 なぜでしょうか。 涙さえ流れません。 涙が頬を伝って彼に落ちて。 まるで、ファンタジーのように彼が目を開くことを何処かで望んでしまいます。 「○○○、最期まであなたは私を見ないのね」 閉じられた瞳。その瞳が私を映すことはもうないのです。 触れた指が冷たくて。 人の死がこんなにも身近に感じたことがないから。 『××、ほら、おいで』 『見てごらん、これが君のために用意した向日葵畑』 『泣いてるの? なんで? 』 『嬉しすぎたからって、君らしい理由だな……』 笑いながら貴男は頭を撫でてくれました。 そんな貴男がここにもういない。 泣きたくなるくらい貴男は優しかったのです。 そして、貴男は憎くなるくらい偽善者でした。 怖かったのです、私は。 触れられるはずの距離にいるはずなのに。 貴男は触れさせてくれませんでした。 いつだって貴男は私に触れるばかり。 私の甘いところだけではなく苦くて味わえないところでさえも口をつけていたのです。 知らないふりをすればよかったのでしょうか? あの日。 貴男が私に初めて嘘をついた日。 私が貴男に初めて嘘をつかれた日。 あの日から貴男は急速に私から離れていったのです。 醜いと彼女は小声で私を罵りました。 私はその時から囚われてしまったのでしょう。 彼女のあの澄んだ瞳から。 『返してよ、あんたがどんな色仕掛けしたか解らないけど、この人があんたみたいな女と釣り合うわけないでしょう?!! 』 口汚く罵る彼女を彼は優しく見つめていました。 『ごめんなさい……』 か細い声は彼にさえ届かずに。 彼女は彼の腕をつかんで去りました。 颯爽とした後ろ姿を私は涙さえ流さずに茫然と見つめていたのです。 その時の彼を私はよく思い出せません。 思い出したくないのかも知れません。 その内、どこからかサイレンの音が聞こえてきました。 倉庫のなかに入ってきたのは青い制服を着た公僕。 私を見て、ぎょっとしたようです。 ですが、後から入ってきた初老の男は私を見て憐れんだ視線を投げ掛けました。
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