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「……――……」
まだ「声」は、その少年の内にありながら。
それがずっと、届けてきた唄が鳴り止んだ。
「――…………――」
暗い雨に打たれ、川辺に横たわる少年は、ただその黒い空だけを無機質に見つめる。
この国に来る直前に話した、二人の王女の、同じ顔を思い出した。
――だから……――
思えばそれは、とっくに知っていた運命の時。
――探す必要なんて――……ない、って。
英雄の幽閉を初めて知らされた時から、この末路はわかっていた。
「まず……助けるなんて、できないのに」
わかりきっていた結末。とっくに知っていた運命の時の到来。
そっか――と、少年は納得がいく。
そこまで強くない雨なのに、何故か川が水かさを増していた。
まるで少年と呼応するように、ざわめき始める流れの川辺。
「俺のせいで……」
つい先刻、事切れた男が最後に見ていた、長い戦いの末の答。
「俺のせいで……俺と二人で……母さん達を置いて……」
男が連れ合いと離れ、守ることができなかった理由。少年の長い不信と疑問が氷解される。
――お願い。このままだとユオンが危険なの。
その黒い髪と青い目の母は、ほとんど微笑みを浮かべることは無かった。それでも常に強く在った。
最早少年には、思い出すことの叶わない記憶。しかし男は確かにその眼で、ゾレンに残して行く結果になった、大切な者の姿を見ていた。
――先にザインに行って。わたしは大丈夫……トラスティがエルフィを探してくれるから。
そうして、最後の砦の瓦解を少年は知る。
「俺のせいでアンタは……俺と二人だけで。母さん達を置いて……ゾレンから出たのか」
それは結局、彼のせいではなかった現実。
唯一。ただ一人少年が、誰かのせいと言える相手。
少年の咎を代りに引き受けることができる、嫌いと言って良い誰か……それも少年は失った。
これでもう、少年が生きていた方がいい理由は、本当に全て失われてしまった。
「…………」
けれど、その運命の到来は避けられなかった。
「そんなの……わかり、きってた」
だから初めから、少年は何も希めなかった。
突然、まるで生き物のように躍り上がり、黒い濁流が押し寄せてきた。
そのまま川辺に横たわる少年もろとも、全てを飲み込んでいった。
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