溺れるふたつの体

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  「回りくどいとは、 随分な言いようだな。 ──拓海」 「回りくどいんだよ。説明しろ」 ──何故だろう。 昔は、この男が 何を考えているのか、 欠片も読めなかったように 記憶している。 いつもやわらかく微笑んで、 ゆっくりと話して。 俺の弟と似た男だ、と思った。 だが、 今顔を見て話しただけで、 俺にはすべてが視える。 この男は俺に会いたくて 仕方なかったらしい、と。 それに、 どこが誠司と似ているんだ。 この男の本質は、 まるで俺と鏡で映したようじゃねえか。 昔の俺の目は節穴だったな、 としか思えなかった。 その程度でよくあれほど 自惚れることができたもんだ。 .
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