溺れるふたつの体

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  言ってやると、 凰坂は目を細めて 皮肉気に笑う。 少し老獪の入った その表情に刻まれる細かい皺は、 やつ本来の年齢を 隠し通せてはいなかった。 ……口八丁でいくらでも 俺を言い包めていた、 綺麗で隙のないあの静かな猛獣、 どこ行った。 ガキの頃は強い強いと 思っていた大人が少し老いて 弱くなっているのを見るのは、 ものすごく気まずいものらしい。 凰坂は胸の前で ゆるく腕を組むと、 改めて上から下まで 俺をしげしげと見る。 「……凰坂グループの 会長である要は、実の兄だよ。 母の実家であるあの家── 藤堂の表札のかかった家で ひとり暮らしていただけで、 俺は最初から凰坂春海だった」 .
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