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十八歳の夏。
東北にある祖父の家に、一人で泊まりに来ていた俺は、予定通り東京に帰る日を迎えた。
午後2時の夏の空は快晴だった。
遠くからミンミンゼミの大合唱が聞こえて来る。
背中には貴重品だけ詰め込んだデイバッグ。
白いTシャツにブルーのジーパン。
足下はフットワークも軽く履き慣れたスニーカー。
「お稲荷さん作ったから電車の中で食べなね」
祖母が手渡してくれた、タッパー入りの『お稲荷さん』を俺はありがたく受け取りデイバッグの中に詰め込む。
その時、
「おおーい。車がパンクだ!」
車庫に軽トラックを取りに行っていた祖父が、赤いママチャリを引きながら慌てた様子で駆けて来た。
「時間に間に合わんといかんから、これ乗って行け。駅に置いておけば後で取りに行くからな」
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