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ようやく気分が落ち着いた頃には、辺りは真っ暗だった。
どうやら店からだいぶ歩いてきてしまったようだ。このまま帰ろう、そう思ったものの、相棒を店の駐輪場に置いてきてしまったのを思い出して死にたくなった。
なんて日だ。戻るのは死ぬほど気が引けたけど、そのままにしておくわけにもいかない。仕方なく、とぼとぼ店へと引き返したんだ。
三十分ほどで店の前に着き、相棒が寂しそうに佇んでいるのが見えた。腕時計を見ると午後九時を少し回っている。
――もう彼女が店を上がる時間だ。
そう思った瞬間、喫茶店の扉がカランカラン、と音を立てて開いた。
現れたのはもちろん――
――小豆さん……。
彼女もすぐに気づいた。申し訳なさそうに歩み寄ってくる。思わず俯いてしまう俺に、彼女は言った。
「聞いてほしいことがあるの……ニコルくんに」
本当にいいのか? と自分の声が頭に鳴り響く。もう二度と彼女と逢えなくなってもいいのか? ともう一度。
「あのね……」
いいわけがない! そんなのいいわけがあるものか! 彼女とこのまま逢えなくなったら……そんなの……イヤだ。
俺はもう覚悟を決めたよ。「勝ち目がない勝負だとしても、男には戦わなければならない日がきっと来る。それはお前にもじゃぞ、ニコル」。
死んだ祖父ちゃんが遺してくれた、その言葉を胸に抱きながら。
「さっきの話だけどね……」
不安そうに言う小豆さんの言葉を遮って、俺は言った。いや、声高に叫んでいた。
「小豆さん、俺と……結婚を前提にお付き合いしてくださいッ!」
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