第一章  『現代人の弱点』

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一 誰にでもひとつくらいは、周囲に知られたくない、もしくは隠し通したい、と心の奥に頑丈な鍵をかけてしまってある『秘密』が存在すると俺は思っている。 まあ、秘密とまでいかなくとも、自分にとって「そこを触れられると超辛い!」と思わず嘆いてしまう『弱点』のようなものがきっと誰にでも。 ――俺にはある。それがなんと俺の場合、ほぼ日常的に人の目に晒されているのだから嘆くどころではございません。むしろ嘆き疲れて声が枯れてしまったブルースシンガーのように哀愁漂う状態なのでございます。 様々な場所、機会、そりゃあもう……目が行き届かないところまで。だから当然、見知らぬ人間が俺の弱点を知っている可能性があるというわけ。 《青柳二来琉(あおやぎにこる)》。 これが俺の名前。何年か前に流行ったキラキラネーム(一部ではもっとひどい呼ばれ方も)ってあったよね。うちの親というか正確にはうちの母さん、悲しいかな、あれの先駆けなんだ……。 ……当て字にもほどがあるだろッ! 一見、読みにくいし無駄に派手なこの名前。俺や母さんや友人や先生ですら、よほど重要な書類じゃない限りは、漢字が面倒くさいという理由で《ニコル》とカタカナで書いてしまう始末。 っていうか、母さんは漢字で書いてね! それを書く義務すらアナタにはあると思うから。マジで! 他にもこの名前のせいで、小さいころから随分苦労させられたよ。たとえば病院で名前を呼ばれたときなんか、大抵、誰かは俺の顔をちらっと(あくまでちらっと)確認してくるし。でさ、そのあとあからさまにガッカリするのやめてもらえないかな? ああそうだよ、ハーフじゃねーよ。生粋の日本人だよッ! ……とまあ、怒り出せば夜もふけるのを忘れて怒り尽くせてしまうので、この辺で止めておこう。こんなことを語るのもなんだか寂しいし。 ん、誰だろ? 失礼して。ピコピコ……(携帯の液晶画面にタッチする音)。 ――と、これまでは不幸中の幸いと言おうか、目立ったイジメにも合わず無事高校生となり友人にも恵まれ、恋慕う女性まで現れまして、淡く平穏な毎日を送っていたわけだが、その恋が『とあるトラブル』によって急展開をみせたものだからさあ大変!   一時は奈落の底に落ちかけた俺の恋。 しかし、勇気を出して告白したその先に、華やかに彩られた薔薇色の日々が待っているとは夢にも思わなかったよ。
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