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『さっきマスターから電話があってね。実家に帰る急用が出来たみたいで、明日は定休日にするんだって。だから一日オフになっちゃった』
なるほど。しかし俺の楽しみがひとつなくなったことも確かだった。ああ、本当になにもすることがない……。
『でも良かったぁー。えっとね、あの……』
テンションがた落ちの俺とは対照的に、なんだか小豆さんは嬉しそう。しかもなにか口ごもっているような。
『もし良かったら、二人で遊びに行かないかな?』
「え?」
『やっぱりだめだよね。……うん、ごめん忘れて』
「ちょちょちょ、待って下さい。一回整理させてください。えーと、二人で遊びに……ということは、俺と小豆さんが二人で遊びに行くってことですかはい行きます!」
『いいの?』
「も、もちろんです! 身に余る光栄過ぎて断る理由が全く見当たりません! でも俺なんかが一緒で本当にいいんですか?」
『い、いいに決まってるよぉ。そんなに持ち上げてもなにも出ないよ?』
小豆さんは照れたように声をうわずらせる。
「す、すいません! じゃあえっと、ど、どこに遊びに行きましょう?」
『うん、それなんだけどね。15時半に《煉瓦町(れんがまち)商店街》の中でちょっと寄りたいお店があるんだ。できればその周辺でお願いしたいんだけど、いいかな?』
「いいですよ。15時半ですね」
『うん、ありがとう。でね、その時間までの予定はまだ特に決まってないんだけど……ニコルくんはどこか行きたいところある?』
「そうですね……」
煉瓦町商店街というのは小梅市のメインストリートだ。同名の通りが一丁目から七丁目まであり、その長さは直線距離にして約2.7キロ。聞いた話によると、この長さはなんと全国一位だそうだ。ここ数年、郊外に大型ショッピンモールができたことで人が少々流れ気味だけど、それでも、若者からご年配でにぎわう小梅市一の繁華街と言えるだろう。
ただ、煉瓦町でデートの定番ってどこだろう? 映画とか、かな?
…………。
……というか、デート? これデート!?
「これデート!?」
『えっ、うん。デートって言われればそうかもしれないけど……言葉に出しちゃうとなんだか照れるね』
「……あのもしかして、俺、またなにか変なこと口走ってました?」
『うん。これデートってすごい大きな声で』
今すぐ死にたい。
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