12人が本棚に入れています
本棚に追加
『そういえばさ、小説どうだった?』
ふいに話題が変わり、緩んだ頬の筋肉を締め直して答える。
「途中まで読みましたよ。すごく面白いですね」
小説というのは、さっき俺が読んでいた花柄のブックカバーの小説だ。実はこの本、今週の初めにシロップに行ったとき、小豆さんから借りたのだ。
『でしょ、面白いでしょ。今どのあたり?』
「ヒロインの遥が、主人公の直人に想いを寄せ続けてようやく告白するシーンですね。なんだか胸にこみ上げるものがありました」
『うんうん、いいよねー。わたしあそこで何度も泣いちゃったもん。遥の気持ちすごく分かるなぁ』
実は俺もそう思っていた。この小説に出てくる遥というヒロインはどことなく小豆さんに似ている。きっと彼女も、主人公の直人を一途に想う遥のように純粋な人なのだろう。
俺は思い切って尋ねてみた。
「遥に共感するってことは、小豆さんが遥に似ている部分があるってことですか?」
すると小豆さんは、「ん……」と短く言葉を発したあと、なにか考えているようだった。
『……うん、確かに似ているかもしれない。遥が直人のことしか考えられないみたいに、わたしもひとつのことしか考えられなくなるタイプだと思う。恥ずかしいけど、夢中になりすぎて他のことをおろそかにしちゃう面もあるんじゃないかな』
最初のコメントを投稿しよう!