序章  『恋の保留』

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一         その帰り、俺は海岸通りをバイクで走っていた。 自宅までの帰り道としてはどう考えても遠回りだし、今や生産中止となった我が相棒、《ホンダ・ジョーカー・50》にとって潮風は難敵(放っておくと錆びてしまうからだ)。 普通なら、避ける道である。 ――普通ならば。 そう、今俺は普通じゃない。RPG(ロールプレイングゲーム)で例るといわゆる『混乱状態』に陥っており、敵味方関係なく攻撃しちゃうレベル。 それは大事な高校受験の入試会場を間違えた瞬間や、満員電車の中で「この人痴漢ですぅ!」と手を強く握られて晒し者になった瞬間――に、ものすごく近い。 だからといって俺は、いつどこでもそうなってしまうようなパニックピーポーではない。冷静沈着をモットーとしていて、「ニコルくんは大人びてるねえ」と近所のおばあちゃんに言われるほど極めて落ち着いた高校一年生だ。 つまり、そんな俺が正気でなくなる理由がある。 知らぬ間にアクセルが全開になっている理由さえも、ちゃんと存在する。 小っ恥ずかしい話だけど。 俺はついさきほど、ある女性に告白をしてきた。
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