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……そのあとのことはあまりよく覚えていない。
確か友人が来たにもかかわらず、「この店で話そううんそうしよう」と強引に店にとどまり、ずっと彼女の仕事ぶりを盗み見ていた気がする。
度々、吸い込まれそうな瞳でこちらを呆然と見つめてくる彼女と目が合ってしまいドキッとしたけれど、すぐニコリと微笑んでくれたんだ。
なので、友達との会話なんて覚えちゃいません。
それほど彼女に夢中になっていた。
――それから三ヶ月ほど通いつめたよ。駅前にあるシロップは、電車だと自宅から徒歩も合わせて片道15分、切符代が200円かかるけど、相棒に乗ってこれば10分でこれるし、原付だからガソリン代も安くつくしね。
雨の日も風の日も、彼女の入れてくれた一杯のほろ苦いコーヒーを啜るために、彼女の笑顔が見たいがために、それ以外の無駄遣いを徹底した。金銭危機は何度もやってきた。それでも! 俺はやめようとしなかった。
たとえ、お気に入りの漫画や推理小説を売り飛ばしても、ピンク色の豚の貯金箱を叩き割ってでも、母さんに土下座して前借りを頼んだとしても――。
そんな日々を過ごすうちに、自然と喫茶シロップの店主、小ぶりの丸いサングラスがトレードマーク、通称・マスターとも仲良くなった。
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