初恋の終わり

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 女にだって同期の桜はある。訓練で顔を合わせた同期生たちとは、学校で机を並べる友人たちとは違う不思議な横の繋がり、結束があった。離職や結婚、人生のそれぞれの節目でくっついたり疎遠になったり、分かれたりしたけれど、残った仲間は大切な友となった。  始終側にいなくても、折々に叱咤激励する彼女たちの存在がなければ、自分の人生は味気ないものになっただろう。  仲間の中にひとり、どうしても相容れない人がいた。皆から下の名前で呼び捨てにされていた彼女、綾は、非の打ち所のない優秀さと美貌で成績はいつもトップクラス。人よりすこしばかり自信があった容姿も頭脳も綾の前では色褪せる。別に嫌っているわけではないのに……。反りが合わない人はいるものだ。自分にも兄以外に苦手な人が存在するという遅い気づきに、いかに人付き合いが浅くて子供だったかを思い知った。  目の上のたんこぶは、親たちだった。女給のような、下々の仕事をして、と軽蔑した。認めてくれとは言わないけれど、女給だって立派な仕事だ。馬鹿にしないでもらいたい。  もう、親や兄に期待をするのは止めようと思った。    ◇ ◇ ◇  飛行機で移動するなど、贅沢の極みだった時代。  便数もお客様も限られていた。  現場に立った時、茉莉花は、私は広告塔なのだ、と自分の仕事を認識した。  そして、まだ実家の羽振りが良かった頃、出掛けたホテルのドアマンにいつも名前で呼ばれていたことを、一目で客の顔や名前、バックボーンまで理解し、記憶する彼らをしきりと思い出した。倣おう、と思った。
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