少女は出会った

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 そして賢かった。いくら勝ち気で口の立つ茉莉花でも、口に出していって良いか悪いかの区別はついたし、時代が許さなかった。家が富裕層なのは分かっていたので、内心の思いは表に出さず、可愛い抵抗程度で収めるようにつとめた。  頃は昭和初期、軍靴の音が聞こえてきそうな、薄ら寒い時代。茉莉花に限らず、誰もが望む生き方ができなかった頃だ。  そんな中、彼女は一生を左右する、ある出会いをする。  次郎兄の同級生だと言った。  兄が小男に見えてしまうくらいの長身の、快活で物怖じしない人だった。頭の回転が速く、話す言葉がどれも生きていて、いつまでも聞いていたい声と笑顔が印象的だった。  尾上慎と名乗る青年に、茉莉花は心をいっぺんに奪われた。  いつかは親の決めてきた相手と結婚するのだから、男の人とは極力会ってはいけない、話してはいけない、と言い含められてきたけれど、兄の客人として出入りする慎の来訪が何より楽しみで嬉しかった。 「彼は商家の出だ」  一郎兄や親は本人を前にして面と向かって言わないだけで、次郎兄に釘を刺すくらいだから良く思っていないのは明らかだったが、次郎兄は「大切な友だから」とあっさり忠告を無視し、慎は普通に高遠家へ出入りを続けた。  両親たちには疎まれたけれど、祖父母はさっぱりした気質の慎を気に入った。 「茉莉花のお婿さんになってくれればよいのにね」  と祖母に耳打ちされた時は我知らず顔が赤くなったが、心底嬉しかった。
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