少女は出会った

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 パイロットになりたいと語っていた慎は大学から空軍士官学校へ転学した。いつかは赤紙が来る、なら、自分が行きたいところへ行ってやる。実現できるわけがないことを、言ってやってのけようとする彼を無謀だとは思わなかった。  時代の荒波に呑まれているのは自分だけではない、その中で泳ぎたいだけなのだ、彼は。私も。  お互いに心惹かれるのは自然な感情だった。  差し延べられた手に己の手を重ね、「慎さん、大好き」と言って受ける抱擁は、陽だまりのにおいがした。  しあわせなのだと感じた。  女の操は守らなければならない、未来の夫のために。  この人だ、と思った。  私の夫は慎さんだけ。  だから、これは自然なこと。彼女は彼に身を委ねた。  女には疎い慎と、男にはもっと疎い茉莉花はままごとのように抱き合った。そして、思いを遂げる前に慎の方が果ててしまい、当人同士にとっては、特に男には赤面する結果として終わってしまったが、ごめんと詫びる彼に、本当に結ばれるその時まで取っておきなさい、と誰かが言っているのだと思うわ、と茉莉花は慎にもたれて言った。下着を濡らしたお互いに青くさいにおいも愛しい、甘酸っぱい思い出として彼女と彼の心に刻まれた出来事だった。
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