少女は出会った

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 やさしい思い出は数が少なくても心の支えになり、時には一生を左右する。年頃となっていた茉莉花には、世の中が戦時色一色に染まっていくというのに決められた人生のレールを、走らせようと画策する身内がいた。  少し前なら、恋を知らなければ、茉莉花はしぶしぶながらも受け入れたかもしれない。人より良い暮らしをしてこれたのも実家にそれなりの蓄えがあり、豊かで力があったからなのだから。それに見合う役所を負わなければならない、自分の運命、責任だと思って生きてきたのだから。  けれど、今の茉莉花には心の中に住む人がいて、定員はひとりだった。  自分の心に忠実でありたい。  愛する人の為に。  口には出さなくても、あからさまな娘の変化を見逃す程、親も甘くない。許すはずもない。  が、茉莉花も負けていない。  半ば引きずられるようにして連れて行かれた見合いの席を、良家の子女にあるまじき無礼な態度で中座し、先方や仲人、両親を激高させてもケロッとしている。親たちは、今まで猫を被り、隠してきた娘の、一筋縄ではいかない本性を悟った。やめてせいせいしたわ、と茉莉花は思った。  慎とは細々とだが手紙のやりとりは続いていた。が、お互いが交わせる便りは本当にごくわずか。世の中は変わっていく。貴重な時間に貴重な物資、そして人材。  大局を見る目はなかったから、自分の身に引き寄せて、自分の身の周りに起こる範囲で考えた。戦争は嫌だ、キライだ、と。
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