少女は出会った

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 最初は些細なわがままから気付いた。  好きな音楽が適性国のものだという理由でかけられなくなった。個人の楽しみが奪われていく。ささやかな食卓もない、身を飾ることも許されない。皆が余裕をなくし、ひとつの方向へ、大きな丸太が転がるようにごろごろと流され、伸されていく。  難しいことはわからない。  でも、どこかで誰かしらが身内を亡くして嘆く声が増えるにつれ、間違っていると思うようになった。  友人が、家族が、恋人が、昨日のように過ごした時を今日は迎えられず、明日の保障がない。未来が読めないのはおそろしいと思った。  そのおそろしさに臆さない道しるべであり心の支えは、慎の存在だった。  茉莉花を取り巻く世界も日本中も窮していく中、信じられるのは慎の気持ちと自分の心だけ。この手が、あの人に届き、握られる日が来ることだけを祈っていた。  いよいよ、自分の番が回ってきたようだ、と書かれた便りの後、彼からの消息は途絶える。同じ頃、一郎はすでに出征をしていた高遠家から、今度は次郎兄の出征が決った。早々に疎開していた一家の元には、親しい人の安否も届く便りも不足していた。次郎兄から忙しい最中に教えられた慎が所属するという部隊へ宛てた便りはことごとく差出人不明で返ってくる。  胸騒ぎがした。  ふっつりと慎の安否消息は消え、茉莉花はうろたえ、絶望する。  ――死?  まさか、そんな。  慎さんが、私を置いて逝くわけがない。  今頃は、自分のつとめを果たしていて、少し忙しいだけだ。  私のことを忘れたわけでは、ないわよね。  最後に会った日にした約束、祖母から譲られた指輪を彼に渡した。受け取った彼は、将来、必ず迎えに来るから、その時には君の指にはめるから、それまで預かっているからと言って敬礼をした。その時の慎の姿に何度も何度も問い掛ける日が続いた。
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