少女期の終わり

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 イヤイヤ決められた婚約者も戦争に取られることになった。彼女の意向を無視して急遽行われた祝言の翌日に招集が控えており、祝いの席にはほど遠かった。嫌だった、式の最中ずっと、茉莉花は泣いていた。当時の婚約者には、今思えば大層申し訳ないことをしたと思う。でも、彼女が心に決めた夫は慎だけだった。強情な彼女の心は簡単にほぐれない。他の男に嫁するなんて。断じて受け入れられなかった。  夜にふたりきりで残された時、自分はこれから戦地へ向かう、生きて帰ってこれないかもしれない、だから、と請われ、彼の求めに応じた。  男はずるい、生死を口にされると拒めない。  まだ少女と言っていい体に、痛み以外の記憶を残さず去った婚約者は、今では顔もはっきり思い出せない。ほとんど印象に残っていないけれど、こわい人ではなかったと思う。平凡に、穏やかな家庭を望める平和な時ならば、決して悪い人ではなかった。  その後、間もなく出征先で戦死した彼を思うと切なくなる。  死んだと聞かされても何の感情も動かなかった。  仮の、一晩だけではあったが、結果的に世に許された唯一の『夫』だったのに。  自分の薄情さが恨めしく、消息が途絶え、生きているかもわからなくなった慎も恨んだ。  ああ、いやだ。  女は望まないものを無理矢理にでも開かされ、受け入れさせられる。  当たり前の事として。  男は嫌だ。  女の自分はもっと嫌。  世の中を恨んでしまいたい。  けれど、できない。  夫だった人の、はにかんだ様子を思い出すと心に痛みを感じないといえば嘘になるから。  あなたを愛せれば良かった。  でも――。ごめんなさい、私には無理。あなたからは痛さ以外の記憶がないの。  なかったことにしたくて書き足し、塗り潰した線は黒々と、彼の人が存在していたことを図らずも主張することになっていた。
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