第1章

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■ 「ああ、楠本さん。もうすぐ受験ですね。といっても推薦だから余程の事がない限り心配ないでしょう。 まあ、一応報告にいらっしゃい。おめでとうくらいは言ってあげます」 廊下で会った時にそう言われて、1ヶ月後。 合格通知を昨日受け取ってから、ざわざわする胸を何度もたしなめた。 理科室の前まで来て、やっぱり引き返そうとした時に、こちらにやって来る先生と目が合った。 「おや、まさか帰るつもりですか」 笑顔にそぐわない絶対零度の声。 バナナで釘が打てマスヨ。 後じさりしたら、戸を開けられて、そのまま室内に追い詰められた。 「用があって来たんでしょう」 デスクに手荷物を片付けながら、先生が言う。 そのいかにも興味なさそうな様子に、少しムッとする。 「先生が来いって言ったから」 「ああ、言いましたね。 合格おめでとうございます。 そうですか、楠本さんは私が来いと言ったら来るんですか。 それは有益な情報です。」 合格通知を一瞥して、おめでたくもないように。
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