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そう言って、大聖は白い歯を見せて笑った。言葉とは裏腹に、三人での会話を心から楽しんでいる表情だった。ぼくはふと、気になっていたことを聞いた。
「ねぇ、壱心は? 壱心もここにいるの?」
ぼくがそう尋ねると、大聖がおもむろにカーテンを開けた。そこは、四人部屋の病室のようで、対角線上のカーテンの開けられたベッドには、こんこんと眠りつづける壱心の姿があった。
「実はあの日、俺らはドライブをしてたんだ。壱心が免許を取って納車をしたから、三人で初ドライブに行こうって誘ってきてくれてな」
「夢の中じゃ、ぼくたち高校2年生だったし、仲はよくなかったけど、本当のぼくたちは幼なじみで、仲良しの高校3年生だったんだ。四人全員が見た夢のからくりはわからないけどね」
「で、その日は雨だった。でも、壱心は行くって聞かなくて、結局三人でドライブに出かけたんだ。山道の急カーブを曲がりきれなくて、対向車線の紘夢の車と正面衝突してしまったんだ」
「ぼくはそのときの衝撃が、ぼくたちの脳になにか同じ信号を送ったのではないかと思っているけどね。そして、ぼくたちは一ヶ月以上ものあいだ、昏睡状態におちいって同じ夢を見ていたというわけだ」
「丈夫な俺様は、一週間前に目覚めて、この通りピンピンしてるけど、蒼空は昨日、紘夢は今日、意識が戻ったってわけだ。運転席にいた壱心はまだ眠ってるけどよ、じきに起きるだろ。ま、心配するな」
「なんだか唐突な話で信じられないけど、きみたちは現実なんだね?大聖も、蒼空も、壱心も、またぼくと一緒にいてくれるの?」
「当たり前じゃないか、ぼくのヒロ」
「オメぇのヒロじゃねぇよ。三人の紘夢だ。壱心も含めてな」
ぼくは奈落の底に突き落とされた気分から、天にも昇る心地になった。三人との高校生活は夢だったけれど、三人との関係までもが夢だったわけではなかった。ぼくが三人を好きな気持ちも、ふたりがぼくのことを好きな気持ちも本当だったんだ。壱心もきっと近いうちに意識を取り戻して、ぼくのことを好きだと言ってくれるだろう。今ではその確信があった。
そう思うと、ぼくはあたたかい気持ちに包まれた。そして、現実の世界で生まれてはじめて、これから先の人生が、明日が来るのが、楽しみだと思った。
End……
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