ノスタルジックハーレム

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 あぁ身体が重い……。自分にだけ人より大きな重力がかかっているのではないか、と疑ってしまうほどだ。  それに最近、少し歩いただけでも足腰は悲鳴をあげるし、白髪もめっぽう増えた。おまけに肌のハリはとうになくなったし、胃は慢性的に痛むときている。  そんな自分に彼女などいるはずもなく、というより生まれてこの方できたためしがない。ブサイクで、人に言えるような趣味もないぼくに、好意を持ってくれる男女はいない。彼女さえできないというのに、ましてや彼氏などできる日がくるのだろうか……。  そう、ぼくはいわゆるゲイなのだ。いや、たぶんそういうことになるのだと思う。なぜって、男の人と付き合ったこともなければ、まぁその性行為というやつに及んだことすらないからだ。  ただ、女性の身体に興味を持ったことがないし、いつも気になる対象は同性だから、消去法的にゲイだと思っているにすぎない。 ぼくの名前は、小笠原拓(おがさわらひろむ)。今年で43歳になる、しがないサラリーマンである。両親はすでに他界していて、東京の郊外の実家でひとり暮らしをしている。  名門と呼ばれる理系大学を卒業後、新卒で現在の製薬会社に入社して、20年も勤めあげてきたというのに、役職は第一営業課係長。同期の連中はみな、もう何年も前に管理職なっている。  ぼくだって、なにも好きで係長でいるわけじゃない。遅刻欠勤もしたことはないし、真面目に働いてきたつもりだ。ただ、自分ではがんばっているつもりなのに、どうも他人から見ると要領が悪かったり、積極性に欠けたりするらしい。  そんなぼくのことを、若い女子社員たちは、陰で万年係長と呼んでいることも知っている。 いや、正確に言えば、ぼくの前でも彼女たちは堂々と言うようになって、最近やっと知ったというわけである。  ちなみに、好きこのんで童貞でいるわけでもない。ぼくだって人並みに恋がしてみたい。若くてかっこいい彼氏と手をつないで遊園地に行ってみたい。いや、若くなくてもいいから、かっこいい彼氏と映画館に行ってみたい。いや、そんな贅沢を言える立場でもないので、ぼくのことを好きになってくれる人なら、それだけでいい。
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