ノスタルジックハーレム

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 誰かの話し声が聞こえる……どこか聞き憶えのある声だ……たしか前にもこんなことがあったような……。  ぼんやりとした話し声を聞き取ろうと、ぼくな耳に神経を集中させた。目はまだ開けられそうにない。 「もうそろそろ2ヶ月になるわよ。昏睡状態と説明はされたけれど、いつになったら、もとの拓に戻ってくれるのかしらねぇ……」 「おい、そんなこと言うものじゃないぞ。拓は生きてくれているだけで充分なんだ。気長に構えるしかないだろう」 「そうよね、ごめんなさい。ちょっと気弱になっていたわ……あっ、見てっ。今、拓が笑ったわよ」 「そんなはずが……拓っ。わかるか、父さんだぞ。拓っ」 「ねっ、たしかに今笑ったのよ。とても気持ちよさそうな顔をして。拓っ、起きて、お願いっ」  母さん? ぼくは答えようとしたけれど、なにかを考えられたのはそこまでだった……。  あれからどれぐらいの時間が経過したのだろう……。長期間寝ていたせいか、身体の節々が痛んだが、不思議と意識はクリアだった。そっと目を開けてみると、そこは真っ白な部屋だった。真っ白な天井に真っ白なカーテン。真っ白なベッドに…… 「母さんっ、父さんっ」 「拓っ、気づいたのねっ」 「拓、よくがんばったな」  ぼくは状況もわからないままに、気がつくとふたりに抱きついていた。母親がぼくを気づかうように抱きとめ、父親がその上からしっかりと抱きしめてくれた。ぼくの目からは、あとからあとから涙がこぼれ落ちていった。 「拓、わたしはあなたのお母さんじゃないわ。わたしは叔母よ。あなたのお父さんの妹よ、わかる?」  言われて、改めて見てみると、たしかに母親ではなかった。背格好が似ているため誤認してしまったが、それは叔母であった。じゃあ…… 「母さんは? 今、どこにいるの?」 「なにを言っているんだ。母さんはもう何年も前に亡くなったじゃないか。拓、まだ混乱しているんだな」  そうか、母さんはもうこの世にはいないのだ。叔母が父さんと交代で看病をしていてくれたのだろう。その感謝の思いをこめて、ぼくはふたたび叔母に抱きついた。
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