第1章

2/4
前へ
/4ページ
次へ
俺はいわゆる『名探偵』と呼ばれる人間だ。 しかし俺が名探偵と呼ばれるのは、他の名探偵とはまったく違う理由がある。 まあ、呼んでいる連中からすれば他の名探偵となんら違いはないのだが。 その理由を説明する前に、さっさとこの目の前で起きた事件を解決しちまおう。 「犯人はこの中にいる!」 名探偵がいる所、常に殺人事件があり、犯人が『この中』にいる事もまた、常なる事だ。 一之瀬、二ノ宮、三井、四ッ倉、後藤 この中に犯人がいるはずだ。 一番怪しいのが一之瀬。 コイツは被害者に恨みがあり、なにより第一発見者。 第一発見者を疑うのは捜査の常道であり、常道とは結果の積み重ねで培われるもの。 つまり、動機があり、第一発見者であるコイツが犯人で間違いない。 「犯人は…一之瀬、お前だ!」 「え?俺?いや違うけど」 はい間違えました。 なるほどなるほど、そのパターンね。 一番怪しいヤツが実は良い人だったっていう、ごくありふれたヤツ。 俺みたいな玄人だと、一周回ってそのパターンに騙されちゃうんだよね、たまに。 怪しい奴は逆に犯人じゃないって事は分かってたけど、その逆の逆の逆?とか考え過ぎちゃう、頭の良いヤツが逆に騙される高度なテクニックね。 流石だわ~。でも俺そういうの嫌い。 さて、ここからが俺が名探偵と言われるゆえん。 「時間よ戻れ!」 ぐるぐるぐるぐる…時計の針がみるみる逆回転してゆく。 さあ、これで『犯人はこの中にいる!』と言った直後まで戻った。 犯人を指摘し、間違えたら時間を戻す。 これを繰り返せば、一発で犯人を言い当てる名探偵の出来上がりというわけだ。 まあそんな事をしなくても、いつもは本当に一発で当ててるけどね。 今日は特別。いやマジで。 そんな事より犯人だ。 やはり怪しいのは二ノ宮さんだろう。 彼女は過去に被害者と付き合っていたが、虐待を受け、周りのとりなしでやっと別れられたという。 恨みをもって復讐する動機としては十分だ。 「二ノ宮さん…貴女が犯人です」 「え?私、探偵さんとずっと一緒の部屋にいましたよね」 しまった、ちょっと可愛いからって敬語とか使ったのが仇になった。 敬語とか使ってるくせに間違っちゃってんのウケる~ダサ~とか思われたよ、きっと。 犯人の私にも礼儀を尽くしてくれる探偵さん素敵!ってなる予定だったのに。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加