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雪は解け、暖かい風が僕らの村にも吹きはじめた
頃に、彼はやってきた。
僕たちも、大人たちも彼の姿を見つけるとすぐに駆け寄って、
「また来てくれてありがとう」「すぐにご飯を用意しましょう」「今日はパーティーだ」等と口々に言っている。
「ちびっこたち、元気にしてたか?」
彼はしゃがんで僕たちの顔を一人一人見て、にっと笑った。
黒髪を隠すベージュ色のニット帽に足まで届きそうな長いコートを身につけ大きなリュックを背負った彼は
「少し休んでから遊ぼうな」
と言って、大人たちと話しながら歩いていった。
夜になると、みんなは彼のためのパーティーを開いた。パーティー会場の広場は、乾杯の合図と共にお祭り騒ぎになる。
僕はお肉を頬張りながら「ようこそ! 幸せを運ぶ旅人さん」と書かれた大きい白い布を見つめていた。
「レン」
突然、僕を呼ぶ声がして振り向いた。お姉ちゃんが僕に向かって手を振りながら歩いてくる。
「もうはじまってたのね」
「うん」
「レンはあの旅人さんに会うのは何回目?」
「三回だよ」
お姉ちゃんも白い布を見つめる。
「あの旅人さんはすごい人だよ。この村のみんなを笑顔にしてくれるんだから」
確かに彼がこの村に来ると、笑顔にならない人はいない。きっと彼が「幸せを運ぶ旅人」と呼ばれている理由はそういうことなのかもしれない。
僕は再びお肉を口に入れながらそう思った。
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