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「っらっしゃいませぇー」
言ったとたん、その客は明らかに顔をしかめた。きっと俺の態度が気に入らなかったらしい。
その様子を見た店長が俺の腕を掴んで、ロッカールームへ連れ込んだ。
「ふざけてんのか」
「いいや」
「はぁ……お前、今日でやめろ」
店長は怒る気力はないようで、疲れた顔で言う。無理もない。
今まで諦めず俺にたくさん指導してくれたのに、俺が全然成長しないからだ。
もらった給料を手に、店を出る。
俺が住むところは、街からちょっと離れた場所にある路地裏。
そこで寝て、服やご飯は最低限にして生活していた。
「つまんねぇな」
ベンチに座って労働者を募集しているフリー雑誌を読みながら呟いた。
「お兄さん、今暇なの?」
顔をあげると、いたのは肌を多く露出した服に化粧ばっちりの顔をした女性二人組。俺を挟むようにベンチに座った。
「私たちとお茶しない?」
「暇じゃねぇよ、あっちいけ」
「きゃぁ! 筋肉すごーい! 私この人好みかも」
そういって片方の女性が俺に抱きついてくるので、俺はそれを引き離す。あぁ、面倒だ。
「白髪かっこいーしイケメンだしね……けど服装ダサくない? 私が選んでプレゼントしてあげる」
もう片方の女性は俺をじろじろ見て言った。
ため息をついてから立ち上がり、掴まれている腕を振り払って路地裏へ向かった。
全くろくなことがない。
俺はいつも寝泊まりする路地裏に着くと、ため息をついて座り込む。
元気をだして、といっているかのように、なついていた野良猫や野良犬は俺の近くに寄って来た。
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